呉春の白梅図(令和2年1月8日)
白梅(禅塾正面庭)
古来、日本人は春の訪れを
梅の香りとともに感じてきたようである。
東風吹かば匂ひおこせよ梅の花 主なしとて春を忘るな(菅原道真)
きえやらぬ雪に春まつ梢より まづにほいくる庭の梅が香(本居宣長)
そこで今回は梅に因んだ話、
呉春の白梅図を話題にしてみたい。
呉春、松村呉春(1781-1789)は、
画を最初、与謝蕪村に、のちに円山応挙について学んだ。
江戸は天明の時代に活躍した絵師である。
先年の秋にその呉春の展覧会に行ってきた。
展示場は逸翁美術館、
大阪の池田市にある。
数年前に同じ美術館で見た
白梅図屏風(重文)を
是非もう一度見てみたかったからである。
浅葱色の背景に
細い枝のうえに無数に散りばめられた
小さな白い梅の花。
その素晴らしさを
言葉で表わすことは私にはできない。
まさに筆舌に尽くしがたい、というほかない。
蕪村辞世の句に、
白梅に明ける夜ばかりとなりにけり
がある。
萩原朔太郎はこの句を評して、
「白々とした黎明の空気の中で、
夢のように漂っている梅の気あいが感じられる」
と述べている(『郷愁の詩人 与謝蕪村』)。
(その「気あい」のうちに、
梅の香りも含まれているのだろう。)
呉春の白梅図はどこかそんな感じもする画である。
呉春の画風に関しては日本美術史に一任する。
呉春その人について
作家の司馬遼太郎が「天明の絵師」というタイトルで、
師匠であった蕪村との関係を中心に小説に仕立てている。
あくまでフィクションだから事実とは異なるであろうが、
その人の一端は窺えるかもしれない。
*梅は中国原産の植物なので、当然、禅の言葉の中にもたくさん登場しています。
その例をここに少しあげておきましよう。
一枝の梅花 雪に和して香(かんばし)
一枝梅花 和雪香
一点梅花の蘂(ずい) 三千世界香(かんばし)
一点梅花蘂 三千世界香
東風吹き散ず梅梢の雪 一夜に挽回す天下の春
東風吹散梅梢雪 一夜挽回天下春