鍋料理の話(令和4年11月16日)

 

紅葉①(長岡禅塾)

 

そろそろ鍋料理の恋しくなってくるころである。

なんでも11月7日は「鍋の日」で、

冬の到来を感じさせる時節に合わせて制定されたようだ。

(そう言えば、11月7日は立冬の日であった)。

 

ちなみに私の好きな鍋料理は「たらと春菊入り湯豆腐」だが、

世間で人気のあるのは、ある調査によると、

1位「寄せ鍋」、2位「すき焼き」、3位「しゃぶしゃぶ」であったそうだ。

(本間美加子『日本の365日を愛おしむ』、東邦出版)。

 

鍋料理は体を温めてくれる他に、

鍋を囲んでみんながそれをつつくことを通して、

仲間の親睦を深め、その絆をいっそう強めるという効果が、

暗黙のうちに期待されているように思う。

 

これは人の和を大切にしようとする

日本独自の文化だといえるのではないだろうか。

 

だから近年「一人鍋」という言葉も聞かれるが、

(私なども大抵「一人鍋」であるのだが)

その場合にはやはり鍋料理のかもす全体の熱量が、

みんなで鍋を囲んでつつきながら食する場合よりも、

少なく感じるのは偽りのないところであろう。

 

柿(長岡京市内)

 

鍋料理で「フグ鍋」と言えば高級料理の部類に属する。

江戸後期の漢詩詩人柏木如亭(じょてい)はその食べもの随筆

『詩本草(しほんぞう』のなかでフグ(河豚)について、

「河豚、美にして人を殺す。一に西施乳(せいしにゅう)と名づく」

と記している。

 

「河豚」はフグの漢名。「美」は美味。

「西施乳」は中国四大美人の一人とされる西施(春秋時代)の乳房。

「乳房」と言ったのは、フグの下腹のふっくらしたところが

女性のそれに似ているからであろう。

 

ここで毒をもつフグが西施に喩えられているのは、

越王勾践から献上された西施の美貌が、

その美に迷った呉王夫差の身を滅ぼしてしまった

故事を踏まえているのである。

 

西施と言うと楊貴妃の名前が連想される。

禅の世界には、美の極致を表現する言葉として、

「美なることは西施の金闕を離るるが如く、

嬌なることは楊貴の玉楼に倚るに似たり」の語がある

(美如西施離金闕、嬌似楊貴倚玉楼)。

 

面白いことに『詩本草』では河豚の上記のような説明とともに、

蠣房を太真乳と名づけるという文章が出てている。

 

「蠣房(れいぼう)」は「牡蠣(カキ)」のこと。

「太真乳(たいしんにゅう」は、

唐の玄宗皇帝の美妃太真(楊貴妃)の乳房のことである。

 

西施乳といい太真乳といい、

どちらも大変色っぽい呼称である。

『詩本草』は「佳艶之称」と形容している。

 

最後に近ごろ新聞紙上で目にした川柳一句を

口直しのためにどうぞご賞味あれ。

「カニ鍋に松茸並べ 目が覚めた」(早田良二)。

 

*「西施乳」「真太乳」の語の説明は揖斐高氏による校注本(岩波文庫)を参照。

なお、同氏の近著『江戸漢詩の情景――風雅と日常』(岩波新書)の「西施乳と太真乳」の章に詳しい説明を見ることができる。

 

紅葉②(長岡禅塾)

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