プーチンという現象(令和4年11月30日)

 

山茶花(長岡禅塾)

 

今年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、

世界中がプーチン一人にかきまわされている感がする。

 

しかしこの現象は決してプーチン個人の資質のみが為せる技ではないだろう。

その強引で獰猛とも見えるやり方の背後には、

何かわれわれには分からないロシア人独特の民族性のようなものが

隠されているような気がする。

 

このことが知りたくて手に取ったのが、

井筒俊彦の『ロシア的人間』(中公文庫)である。

井筒の本を選んだのにはもう一つ別の理由がある。

 

それは以前に、

同じ著者の『イスラーム文化――その根底にあるもの』(岩波書店)や、

『意識と本質――精神的東洋を索めて』(岩波書店)を読んで、

氏の私などの到底およばない学識の豊かさに圧倒されたことがあったからである。

 

私の予想は的中した。

私の知りたかったロシア人の特性がそこに見事に

抉出されているような気がしたからである。

以下に氏によって示されたロシア的人間の主な特性を挙げておきたい。

 

・「ロシア的現象の特徴をなす混沌はただ一つの根源「原初的(エレメンタール)自然性から湧き起って来る」(17頁)。

 

・「原初的なものは暗く、陰惨で、怖ろしい。このようなロシア的人間の性格をディオニュソス的と表現してもよいだろう」(20頁)。

 

・「ディオニュソスは激しい歓喜と忘我恍惚の神である。しかし、ロシア人にあっては、生の明るい喜ばしい側面すらどことなく陰鬱で不気味である」(22頁)。

 

・「ロシア人は上述のような意味では永遠の原始人である。いわゆる原始人(未開人)よりもっと根本的・本質的に原始的である。存在の窮極の源に彼らは直接つながっている」(同上)。

 

・「ロシア人の魂の中には常に原初の情熱の嵐が吹きすさぶ。大自然の原初的な働きが矛盾に満ちているように、ロシア人の胸には互いに矛盾する無数の極限的思想や感情が錯綜している」(28頁)。

 

・「そうであるがゆえに、調和への憧れはロシア人にとっては一つの病的な、狂激な情熱である。ロシア人はそれを“ロシア的諧調”ルスカヤ・ガルモーニヤ”と名づけた」(29頁)。<以上、第一章「永遠のロシア」より>

 

・「ロシア民族はかつてタタール人の“奴隷”であった。ロシア精神の特質はこの屈辱と困難のうちに形成された。それ以前には、ロシア精神と呼べるものは存在しなかった。ロシア精神はロシア民族が“虐げられた人々”となった時から始まった」(43頁)。

 

・「タタール人の支配は13世紀初頭から300年間つづいた。地獄の呵責が300年もつづけば、どんな民族でも、その魂に決定的な刻印を受けざるを得ない。ロシアでは、この苦悩から、特徴ある巨大な反逆人が生れ、黙示録的人間が生れた」(同上)。

 

・「ロシア人は、いつでも必ず何かを信じないでは、熱烈に、気狂いのように信じないではいられない人間である。神でなければ“人間”が、“文化”が、“科学”が熱狂的な信仰の対象になる」(49頁)。

 

・「ロシアでは、“父なる皇帝(ルァーリ)”を戴く専制政治や、さもなければ唯物論が、堂々と神の王座にすわることができる。ここではマルクスが、救世主の姿で熱狂的に迎えられた。しかもそれがたちまちロシアの黙示録と結びついた」(同上)。<以上、第二章「ロシアの十字架」より>

 

・「ロシア人は本質的に“神の探求者”である。しかし、それは是非とも“ロシアの”神でなければならない。ロシア人にはかつてのユダヤ人と同様、自分たちが世界を救う、という選民思想がある」(53頁)。

 

・「こうした思想を懐くようになったのは、タタール人時代につづくモスコウ時代である(1480年、イヴァン三世がタタール人を撃破して民族を解放し、ロシア史上最初の中央集権的国家を成立させた。その支配のつづいた200年間を歴史家はモスコウ時代と呼ぶ)」(56~57頁)。

 

・「一種独特な民族主義的メシア主義にもとづく世界救済の理念は、体制がどのように変化しようともロシアにおいては変わることがない。ロシアの人々は世界歴史におけるロシア民族の使命を自覚し、かつそれを熱狂的に信仰した」(59~60頁)。

 

・「ロシア共産主義はロシアを中心軸とする人類救済のメシア主義である」(64頁)。<以上、第三章「モスコウの夜」より>

 

・「モスコウ・ロシア時代の皇帝、ピョートル大帝の道はテロリズムの積極的意義を認めた怖ろしい冷血漢の道である。この道を行く大帝はレーニンの先駆者、十八世紀のレーニンである」(80頁)。<第四章「幻影の都>。

 

さて、現在におけるプーチンという現象を

以上のような事柄を背景にして眺めてみると、

これまでとはまた違った景色が見えてくるのではないだろうか。

 

 

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