短歌で日本の旅を楽しむ(令和5年1月11日)
長岡天満宮の今年の絵馬
昨年(令和4年)一年間、朝日歌壇に載った短歌の中から、
私に行ってみたいと思わせた場所を詠った歌10首を選んでみた。
〇山ふかく熊は眠るか雪ふぶく 阿仁(あに)のマタギの里のしずけさ(仙台市 沼沢修)
*阿仁は秋田県北部の町。山深い谷に狩猟生活をするマタギの集落が点在する。
〇親鸞が上り下った雲母坂(きららざか) 冬の比叡に足跡を踏む(横浜市 森秀人)
*雲母坂は京都府左京区の修学院の脇から比叡山山頂にいたる古道。
〇大和路はいつもなつかし 幼子のような地蔵の赤き毛帽子(高岡市 梶正明)
*大和路は、とくに京都の五条口から伏見・木津を経て奈良にいたる古道。
〇野口雨情尋ねしお石茶屋 今も変らぬ静寂の杜(福岡市 前原善之)
*野口雨情(1882-1945)は童謡作詞家。お石茶屋は福岡県太宰府天満宮近くにある茶屋。
〇道産子の群れは静かに草を食む 涛沸(とうふつ)湖畔に雨上がる朝(柏崎市 阿部松夫)
*涛沸湖は北海道斜里郡小清水町にある潟湖。
〇満月を与謝の海へと映しつつ 伊根の舟屋は舟吞みねむる(東大阪市 池中健一)
*伊根は京都府与謝野郡の町。舟屋とは舟のガレージのこと。
〇若狭路に別れを告げて滋賀に入る 花背峠の静かなる夏(米原市 米澤一銭)
*花背峠は京都府花背別所町と鞍馬本町の境界となる峠。
〇風合瀬(かそせ)とふ名の駅にあり 海に没(い)る日の最後の光(東京都 嶋田恵一)
*風合瀬駅は青森県西津軽郡深浦町風合瀬の駅名。
〇かっぽ酒かっぽかっぽと注ぐ音に 秋はきて居り高千穂の宿(大分市 岩永知子)
*高千穂は宮崎県高千穂。かっぽ酒は焼酎などを青竹の筒に入れ温めて飲む酒。
〇雪纏(まと)ふ羅臼岳背に帆をあげて シマエビ漁の打瀬舟ゆく(札幌市 藤林正則)
*羅臼岳は北海道知床半島にある火山群の主峰。打瀬舟(うたせぶね)は風帆の力を利用して網を引きながら漁獲する帆船のこと。