自戒(令和4年1月26日)
正月の生け花(長岡禅塾)
命長ければ 辱(はじ)多し(吉田兼好)
わたしが大学院の学生であったころの話です。
指導教官であった老教授がある日、突然、
「私が変なことを言ったら遠慮なく注意をしてください」
と皆の前で言われたことがありました。
普段、ずばぬけて明晰な教授が、
いきなりそのようなことを口にされたので、
それこそ「変なことをいわれる」と、
皆がきょとんとしていたことを覚えています。
あれは教授が何歳ごろのことであったのでしょうか、
今ははっきりとは思い出せないのですけれども、
現在のわたしよりずっと若かったような気がします。
私事ですが、わたしも最近、歳とともに物忘れがだんだんひどくなってきました。
それだけでなく緻密な論理を追求したり、
込み入った話の筋を追うことが億劫になってきて、
ついいい加減なところで諦めてしまうことが多くなってきました。
そういうことで、後になってから「これはマズイ!」というような
結果を招いてしまったことが何度かあります。
もしかしたら、あの老教授も、
そんなふうなことがきっかけで、
あのようなことを言われたのかもしれないと、
最近ふとそのように考えたりします。
年とともに身心ともに老いてゆくことは、
だれしも避けることのできないことです。
しかし、そういうことに気がついた時には、
自分の言動にこれまで以上に
気をつけなければならないと、
今さらながら反省している昨今です。
はじ多き一生なれどけんめいに生ききていつか九十六歳(直木孝次郎)
いつまでもこうありたいものです。
*「命長ければ辱多し」の出典は『荘子』「天地篇」にある
「寿則辱多(寿なれば則ち辱多し」である。