寺の鐘の音は騒音ですか?(令和2年2月26日)
板(はん)
朝5時と夜9時の2回、この板を打つ
スイスでも教会の鐘の音を「うるさい」
と感じる人がいると聞いて驚いた。(2/2朝日新聞グローブ)
「スイスでも」と言ったのは、
昨今、この国でも寺で突く鐘の音を「うるさい」
と文句をいう人が増えてきたようで、
そういう苦情があるので除夜の鐘なども、
とうとう昼間についてしまう寺があると聞く。
そう言えば、
数年前に警察官が禅塾を訪ねてきたことがあった。
要件はご近所から禅塾に苦情が寄せられているとのことであった。
即座に、「身に覚えはございません」と言いたかったけれど、
とにかく説明を聞いてみることにした。
禅塾では禅道場の仕来りで朝5時と夜9時に打板といって、
鐘の代わりに分厚い板(はん)を打つことになっている。
その音が「うるさい」と近くの人が警察に訴えてきたというのである。
これを聞いて私はびっくりした。
よもやそんなことがあるとは考えてもみなかったからである。
その場は禅塾の事情をよく話して、
引き取ってもらったが、
今に至るまで私は、
その類の「うるさい」という苦情がよく理解できないでいる。
私は言いたい。
「夕焼け小焼けで日が暮れて / 山のお寺の鐘が鳴る」
この童謡をよく聞いていただきたい。
かつては寺の鐘の音が子供においても、
その生活の一部になっていたではないか。
ミレーの「晩鐘」と題された絵をよく見てほしい。
教会の鐘の音が農耕する民衆の生活の中に
深く染み込んでいたではないか。
こういうゆったりとした時間の流れが
徐々に世界中で失われつつあるのは
まことに残念なことである。
禅堂庭に咲く白梅